レストラン訪問記:下鴨糺の森(森本町)「京懐石 吉泉」(★★★)

京都にうかがう際には懐石料理のお店にうかがうのがならいですが、今回はご縁あってこちらのお店でお昼の食事を楽しんできました。
ミシュランの出自はフランス料理の紹介本なので和食の評価についてはまだ定まったものがないのでしょうか、(ミシュランでの)高い評価とは裏腹に大きく期待を裏切られる食事となりました。
すでに京都で個人的に美味しいと思えるお店を知っている身としてはこちらに再訪することはないでしょう。これまで食事をしたことがある京都の数少ない星つき割烹、料亭との比較にすぎませんが、どのお店よりもカリテプリ(コストパフォーマンス)、味が落ちると感じました。

下鴨神社に自生するという葵
気になったところを挙げると、食材がかぶっていた複数のお料理、食材の旬、出汁と食材の組み合わせ、プレゼンテーション、お客さんに気配りした料理の提供の仕方などでした。
○ 食材がかぶっていた複数のお料理
鯛が、お造り、お椀、焼き物と三種類の全く異なるお料理に使われていました。鯛がこの時期にあってとびきりの旬の食材ということならまだ「〜尽くし」のような趣向でありかとも思いますが、そういうわけでもなく産地の異なる鯛をあえてそれぞれのお料理に使う意味が不明でした。またそれぞれの鯛も特に美味しいというわけでもなかったです。潮汁の鯛は明石の鯛とのことでしたが、お造りで愛媛の鯛を出すならこちらに明石のものを使って頂きたかった。おそらくお刺身では出せない質の鯛ということだったのでしょう。両方とも残念でした。
また、鮪がお造り、小鍋とで使われていましたが正直この時期に鮪を推す理由がよくわかりません。鮪はとろの部分でもちろん不味くはないし美味しいですが、三つ星の味かというとそうではないです。
○ 食材の旬
京都の懐石料理店でお食事をするとランチのお値打ちの食事でも季節や歳事を取り入れた食材やあしらいがされているのが常ですが、こちらのお料理からはそれが感じられにくかったです。
青紅葉をかぶせたりといったプレゼンテーションはありましたが、それより料理に用いられている各食材がこの時期の旬の味覚を紹介してくれているのかはなはだ疑問でした。
例えば、3種類もの違う料理に使われていた鯛ですが、春先ならいざ知らず今の時期はむしろ鱧が旬ではないですか。それより美味しいから出しているなら納得するのですが、とてもそうは思えませんでした。
また、お食事に出されたもずく雑炊ですが、もずくはまだ新物ということならいいとしてもこの季節にいくらを入れる意味はなんでしょう。昨年秋に準備した自家製のものでないとすると既製品を使っているという推定が働きます。おそらくあながち間違いでもないでしょう。
それは養殖鮎を使っていることから容易に想像できることでした。この時期鮎の解禁が近いですがまだまだ成魚になっていない時期なので天然の小鮎、若鮎を使うのはまだわかるのですが、まだ大きくなっていないからといって養殖物を使ってまで寿司にして出す意味はなんでしょう。しつこいですが、まだ鱧寿司の方がこの時期の京都の典型的な味覚として認知されているのではないでしょうか。
また、すでに触れましたが旬とは言いがたい本鮪を二種類も提供する意味もよくわかりませんでした。
○ 出汁と食材の組み合わせ
鮪の水菜鍋が提供されましたがいわゆるねぎま鍋のぱくりなのかと思うと正直その時点ですでに残念なのですが、そこで使われているお出汁が鰹節とのことでさらに残念な思いになりました。
料理の素人ですが、鮪節の存在を知っているからです。鮪にあえて鰹からできた鰹節を使う理由とはなんでしょうか。味のハーモニーでしょうか。それまで今ひとつ感動がなかった分、単純にこれまで通りの出汁を定型的に鍋にもそのまま使っただけとしか思えませんでした。
○ プレゼンテーション(料理の提供方法について)
プレゼンテーションで奇をてらいすぎてものの本質を見失っている印象がどうしてもしてしまいました。上述の疑問を読んで頂ければおわかりいただけるかと思います。
丸い酒粕のアイスが最初に出されましたが、何のためのものかよくわかりませんでした。最初の一献の前に体を冷やす意味は何かあるのでしょうか。

また、鯛はパイナップルの上で焼かれて出されましたが、初めて見ました。客への驚きという点では成功しているかもしれませんが、繊細なはずの鯛をパイナップルの上で焼いて出す意味がわかりませんでした。圧倒的に美味しいならともかくとびっこを合わせてなおかつこれを蓼酢のジュレと食べることで美味しさが倍増するという感じではなくただ余計な物が足されているだけにしか思えませんでした。
最後のもくもくと煙の出るデザートも懐石料理店ではいらない演出でしょう。
○ お客さんに気配りした料理の提供の仕方
調理やしつらえ、提供方法に細やかさが感じられず、それもとても残念な要素でした。
一番最初の酒粕のシャーベットですが、丸い形状なのに客に指でつまませて食べさせる形になっていて、客がうっかり落としたりするリスクがとても高いです。客が特にストレスを感じずに食事を楽しめるように配慮するのが料亭、グランドメゾンでしょう。客に一定の努力を強いる提供の方法はフランスの三つ星ではありえないです。
また、食事の時に温める道具として炭を使っている料理もありましたが、炭ではなく簡易なローソク状のものを利用しているものもありがっかりしました。きちんとしたお店はあぶりもバーナーではなく炭を使います。
批判的な評価をつらつら書いてきましたが、他にも不満は色々ありました。

写真の前菜の盛り合わせは旬の食材である小鮎を使ったりはしているものの、全体としては今ひとつ季節を感じづらいものが並んでいる(クジラやパイナップル、川海老等)上、一つ一つが小さめの作りで楽しみづらい面がありました。他のお店はもう少し一つ一つの味が楽しめる工夫がしてあります。
一つ一つの前菜の作りという点では「祇園さゝき」さんの方が丁寧かつボリュームがある盛り付けですし、「草じきなかひがし」さんの方が季節を楽しませてくれる感じが強くて好みですね。
ランチとはいえそれなりのお値段を支払ったことを考えるとパフォーマンスに不満がもれてしまいます。またカウンター席での食事というのも楽しみきれない原因であったかもしれません。
お料理を運んで説明してくれる料理人の方はとても親切で丁寧だっただけに再訪がないかと思うととても残念です。
(いただいたもの)
お昼のコース
アミューズ:酒粕のアイス 伏見の薔薇の花びら
食前の一献:菊姫 純米酒?
前菜:
山桃のクズあんかけ
うめかん パイナップル入り
小鮎の鞍馬煮
ひょうたんのピクルス
クジラと牛蒡のゼリー寄せ
海老豆(ほおづき入り)
白バイ貝のうま煮
なすの煮物
お椀
明石の真鯛の潮汁
玉子かん
お造り三種

・愛媛産真鯛
・アオリイカ 以上二種はチリ酢と醤油で
・長崎の鮪 長芋とちしゃ
和歌山の鮎(養殖)の寿司
川海老の煮物
煮物:鮪と水菜の煮物
焼物:真鯛 パイナップルの上で焼いて
とびっこ二種(醤油漬け/スダチ漬け)
蓼酢のジュレ
ごはん:いくらともずくの雑炊 しそ
香の物
デザート:牛乳とみかんのパンナコッタ 蜂蜜の泡
わらび餅
お抹茶
お番茶
お酒(食前酒以外別料金)
・黒龍(福井) 純米吟醸 1合

リーデル社の日本酒用グラスと
・ハートランドビール(瓶)
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