レストラン訪問記:芦屋市「北じま」(★)
今回は芦屋市にお邪魔して、ミシュラン兵庫特別版2016で一つ星評価されているレストランで食事をしてきました。
結論からいうと再訪はないです。リヨン郊外ミオネ村にかつてあった「アラン・シャペル」で修業されたシェフのお店ということで、同じお店でガストロノミーに初めて触れた身としては、御縁を感じ、期待するところもそれなりにあっただけに残念でした。
再訪はないと思った理由は二つあって、それらは分かちがたく結びついています。
まず一つ目の理由ですが、お昼でもそれなりの金額をとるコース一本でやっているのにも関わらず、その金額から一般に期待される店のレベルには全く到達できていないことが挙げられます。
一つ星店であり、ランチでも魚も肉も入ったフルコースを食べることを全ての客に求めている以上、客としては当然そこがガストノミーを楽しませる場所であることを期待して伺います。しかし、残念ながらここはガストノミーを楽しむことができる場所ではありません。料理の内容からも、しつらえからもビストロあるいは下手をするとしつらえなどはカフェや喫茶店のレベルに留まっています。
頂いたお料理の中で、シェフの技術を感じさせるお料理があったのは確かですが(例えば甘鯛のきれいな鱗焼きなど)、全体としてはメニュー構成やコースに組み込まれたお料理の内容が、陳腐なものに感じられました。
私はミオネ村の「アラン・シャペル」では一度しか食べていませんが、こちらのシェフのお料理に、そこで感じた感動や喜びはみじんも感じられませんでした。
前菜を意欲的に創作するという意識が感じられず、サラダやスープといった型に逃げ込んで、とりあえず今ある食材を器用にあるいは適当にまとめて出しているくらいの意識しか感じられませんでした。
例えばスープに旬の食材であるとはいえる蓴菜が入っていました。透明で涼感を与えることに本領があるといえる蓴菜を濁ったスープに入れることで、蓴菜の素材としての上述の良さを完全に殺していました。さらには、蓴菜のゼリー部分(ほぼ無味の水分)がスープを食す時に味を薄める効果を発揮して、スープの味をも殺してしまっていました。そんなスープが結果として美味しいはずもありません。
手元にこんな食材がある、だから使ってみたというレベルのメニュー作りをしているだけのようにしか感じられず、印象が良くなかったです。シェフは試食をしないのでしょうか。
次に二つ目の理由ですが、価格設定に対してパフォーマンスがあまりに悪いということです。
先ほど、この店をビストロと評しました。まず、狭い空間に喫茶店で使うようなぺらぺらの薄い木材の安いテーブルが置かれていたことや、そのテーブル上にテーブルクロスはなく、飾り皿もなくて代わりに置かれていたのが、いかにも安っぽそうなランチョンマットだったことがその理由として挙げられます。さらには、カーテンなどもないことから外から丸見えで、下手をしたら昭和の喫茶店で食事をしているような気分にさえなるさえない内装も、別の理由として挙げられます。
相応の金額を払って、特別な食事の時間を楽しんでいるという高揚感がないどころか、むしろ、お金を無駄遣いしてしまったような情けない思いにさせられる内装、しつらえなのです。
その点でいえば、奈良県生駒市の一つ星店である「ア・ヴォートル・サンテ」の内装は、フランスの地方にある小さくも珠玉のような星付きレストランを再現していて、両店シェフの意識の差は歴然としています。かつて二つ星だった「ミシェル・シャブラン」で修業されたシェフが営む奈良のお店は、リーズナブルな価格設定ながら、そのようなところに、フランスのガストロノミーを再現しようとする志を感じることができる名店でした(その時の訪問記はこちらから)。

奈良県生駒市「ア・ヴォートル・サンテ」(★)内装
このお店のランチで最低限支出することを要求される金額を出したら、それ相応の特別感がある食の体験をさせてもらえるお店はいくらでもあります。一つ星がつくということはそれだけの期待を客がもつということでもあり、あぐらをかいていてはあっという間に客はいなくなります。
こちらは、一つ星を獲得されて以降値上げがあったことを知っています。しかし中身が伴わないままに値上げをした結果、ちぐはぐさが強調されることになり、皮肉にも店としての魅力が大きく損なわれる結果にもなってしまったように思われます。もっと安価なコースがあればしょぼい内装でもある程度は我慢できたでしょう。
ちなみに先ほど挙げた奈良のお店は、ここのほぼ半額の値段でお昼のコースを提供されています。それでいて、こことは比べものにならないくらいしっかりした内装、しつらえで、味も一定レベルを保っていることから、お得な感じがして、好感度がとても高いです。
また、この店のランチの値段をとるならウェイティングスペースがあってしかるべきでしょう。先ほどから比較対象として挙げている奈良のお店には、小さいながらもそれがありました。
さらに言うと、暑い最中、開店前の客が何組も店の外で立って待っている光景は異常です。ビストロでも、気の利いた店なら中に入れてくれるでしょうし、無理でも入口脇の椅子などに座らせてくれるでしょう。ただの喫茶店で待たされているということならこんな文句も出ないのです。
また、ここも狭い店内に満席になるように客を入れていました。コロナがある以上、そこも配慮して欲しいところでした。
ただ、サービスについては、料理の説明をきちんとしてくれましたし、パンも温めて提供してくれて、バターも含めてお代わりも気持ち良く追加提供してくれたり、ミネラルウォーターと思われるお水をふんだんに注いでくれたりと、みな一様に感じが良く、そこだけは評価できました。
(いただいたもの)
ランチコース(1種類のみ。スープ、肉の選択次第では追加料金が発生。)

アミューズ:はじまりの一品(ボタン海老のサブレ、清水白桃とオマール海老のマリネ)
(→サブレは温かく、ほのかに海老の香りもして美味しいです。オマール海老の火入れは良く、柔らかいのですが、甘味と酸味の調和が今ひとつで料理としては微妙な出来でした。)

前菜:海の幸と有機野菜のサラダ(剣先烏賊・帆立貝・丹波篠山産完全有機栽培のお野菜とスイカのガスパチョ、本鮪と北海道産毛蟹・茄子とパプリカのお寿司仕立て)
(→ガスパチョを平皿に盛るセンスに閉口です。)

スープ:本日のスープ(冷たいじゃがいものスープ)

本日の魚料理:山口産天然甘鯛の鱗焼き 徳島産サザエ 京都産賀茂茄子
(→火入れは良く、鱗が美しいですね。同じ物をランチで出してきたグラシアニより調理は上で、唯一星つきであることを感じられる料理でした。しかし脇にサザエ、下に賀茂茄子で、魚を切る場所がなく、とても食べにくかったです。くぼみのある皿に入っていることで、食べにくさが増していましたね。さらに言うと、サザエの殻が邪魔でした。センス感じないですね。)


本日の肉料理:ランプ肉
(→赤身肉。柔らかみがあり食べやすいです。可もなく不可もないです。)

デセール⑴:生姜のグラニテ
(→グラニテの存在理由は本来魚と肉の間の橋渡し、お口直しにあったはずですが、ここではしれっとデザートのような顔をして出されていてとても違和感がありました。グラニテ自体は生姜の香りが立っていて良かったです。)

デセール⑵:本日の自家製デザート(桃のアイスクリーム 巨峰と桃のコンポート レモンバームの花 ミント 和三盆のメレンゲ)
(→2,30年前に街角に一軒あったカジュアルレストランの盛り合わせデセールを思い出させます。質が悪いわけではないですが、洗練も、工夫もなくてがっかりです。)

食後のお茶:ミントティー
小菓子:自家製お茶菓子(レモンのマカロン)

パン:バゲットとバター

飲物:100%リンゴ(フジ)ジュース
(→美味しいですが、量が少なすぎます。)
結論からいうと再訪はないです。リヨン郊外ミオネ村にかつてあった「アラン・シャペル」で修業されたシェフのお店ということで、同じお店でガストロノミーに初めて触れた身としては、御縁を感じ、期待するところもそれなりにあっただけに残念でした。
再訪はないと思った理由は二つあって、それらは分かちがたく結びついています。
まず一つ目の理由ですが、お昼でもそれなりの金額をとるコース一本でやっているのにも関わらず、その金額から一般に期待される店のレベルには全く到達できていないことが挙げられます。
一つ星店であり、ランチでも魚も肉も入ったフルコースを食べることを全ての客に求めている以上、客としては当然そこがガストノミーを楽しませる場所であることを期待して伺います。しかし、残念ながらここはガストノミーを楽しむことができる場所ではありません。料理の内容からも、しつらえからもビストロあるいは下手をするとしつらえなどはカフェや喫茶店のレベルに留まっています。
頂いたお料理の中で、シェフの技術を感じさせるお料理があったのは確かですが(例えば甘鯛のきれいな鱗焼きなど)、全体としてはメニュー構成やコースに組み込まれたお料理の内容が、陳腐なものに感じられました。
私はミオネ村の「アラン・シャペル」では一度しか食べていませんが、こちらのシェフのお料理に、そこで感じた感動や喜びはみじんも感じられませんでした。
前菜を意欲的に創作するという意識が感じられず、サラダやスープといった型に逃げ込んで、とりあえず今ある食材を器用にあるいは適当にまとめて出しているくらいの意識しか感じられませんでした。
例えばスープに旬の食材であるとはいえる蓴菜が入っていました。透明で涼感を与えることに本領があるといえる蓴菜を濁ったスープに入れることで、蓴菜の素材としての上述の良さを完全に殺していました。さらには、蓴菜のゼリー部分(ほぼ無味の水分)がスープを食す時に味を薄める効果を発揮して、スープの味をも殺してしまっていました。そんなスープが結果として美味しいはずもありません。
手元にこんな食材がある、だから使ってみたというレベルのメニュー作りをしているだけのようにしか感じられず、印象が良くなかったです。シェフは試食をしないのでしょうか。
次に二つ目の理由ですが、価格設定に対してパフォーマンスがあまりに悪いということです。
先ほど、この店をビストロと評しました。まず、狭い空間に喫茶店で使うようなぺらぺらの薄い木材の安いテーブルが置かれていたことや、そのテーブル上にテーブルクロスはなく、飾り皿もなくて代わりに置かれていたのが、いかにも安っぽそうなランチョンマットだったことがその理由として挙げられます。さらには、カーテンなどもないことから外から丸見えで、下手をしたら昭和の喫茶店で食事をしているような気分にさえなるさえない内装も、別の理由として挙げられます。
相応の金額を払って、特別な食事の時間を楽しんでいるという高揚感がないどころか、むしろ、お金を無駄遣いしてしまったような情けない思いにさせられる内装、しつらえなのです。
その点でいえば、奈良県生駒市の一つ星店である「ア・ヴォートル・サンテ」の内装は、フランスの地方にある小さくも珠玉のような星付きレストランを再現していて、両店シェフの意識の差は歴然としています。かつて二つ星だった「ミシェル・シャブラン」で修業されたシェフが営む奈良のお店は、リーズナブルな価格設定ながら、そのようなところに、フランスのガストロノミーを再現しようとする志を感じることができる名店でした(その時の訪問記はこちらから)。

奈良県生駒市「ア・ヴォートル・サンテ」(★)内装
このお店のランチで最低限支出することを要求される金額を出したら、それ相応の特別感がある食の体験をさせてもらえるお店はいくらでもあります。一つ星がつくということはそれだけの期待を客がもつということでもあり、あぐらをかいていてはあっという間に客はいなくなります。
こちらは、一つ星を獲得されて以降値上げがあったことを知っています。しかし中身が伴わないままに値上げをした結果、ちぐはぐさが強調されることになり、皮肉にも店としての魅力が大きく損なわれる結果にもなってしまったように思われます。もっと安価なコースがあればしょぼい内装でもある程度は我慢できたでしょう。
ちなみに先ほど挙げた奈良のお店は、ここのほぼ半額の値段でお昼のコースを提供されています。それでいて、こことは比べものにならないくらいしっかりした内装、しつらえで、味も一定レベルを保っていることから、お得な感じがして、好感度がとても高いです。
また、この店のランチの値段をとるならウェイティングスペースがあってしかるべきでしょう。先ほどから比較対象として挙げている奈良のお店には、小さいながらもそれがありました。
さらに言うと、暑い最中、開店前の客が何組も店の外で立って待っている光景は異常です。ビストロでも、気の利いた店なら中に入れてくれるでしょうし、無理でも入口脇の椅子などに座らせてくれるでしょう。ただの喫茶店で待たされているということならこんな文句も出ないのです。
また、ここも狭い店内に満席になるように客を入れていました。コロナがある以上、そこも配慮して欲しいところでした。
ただ、サービスについては、料理の説明をきちんとしてくれましたし、パンも温めて提供してくれて、バターも含めてお代わりも気持ち良く追加提供してくれたり、ミネラルウォーターと思われるお水をふんだんに注いでくれたりと、みな一様に感じが良く、そこだけは評価できました。
(いただいたもの)
ランチコース(1種類のみ。スープ、肉の選択次第では追加料金が発生。)

アミューズ:はじまりの一品(ボタン海老のサブレ、清水白桃とオマール海老のマリネ)
(→サブレは温かく、ほのかに海老の香りもして美味しいです。オマール海老の火入れは良く、柔らかいのですが、甘味と酸味の調和が今ひとつで料理としては微妙な出来でした。)

前菜:海の幸と有機野菜のサラダ(剣先烏賊・帆立貝・丹波篠山産完全有機栽培のお野菜とスイカのガスパチョ、本鮪と北海道産毛蟹・茄子とパプリカのお寿司仕立て)
(→ガスパチョを平皿に盛るセンスに閉口です。)

スープ:本日のスープ(冷たいじゃがいものスープ)

本日の魚料理:山口産天然甘鯛の鱗焼き 徳島産サザエ 京都産賀茂茄子
(→火入れは良く、鱗が美しいですね。同じ物をランチで出してきたグラシアニより調理は上で、唯一星つきであることを感じられる料理でした。しかし脇にサザエ、下に賀茂茄子で、魚を切る場所がなく、とても食べにくかったです。くぼみのある皿に入っていることで、食べにくさが増していましたね。さらに言うと、サザエの殻が邪魔でした。センス感じないですね。)


本日の肉料理:ランプ肉
(→赤身肉。柔らかみがあり食べやすいです。可もなく不可もないです。)

デセール⑴:生姜のグラニテ
(→グラニテの存在理由は本来魚と肉の間の橋渡し、お口直しにあったはずですが、ここではしれっとデザートのような顔をして出されていてとても違和感がありました。グラニテ自体は生姜の香りが立っていて良かったです。)

デセール⑵:本日の自家製デザート(桃のアイスクリーム 巨峰と桃のコンポート レモンバームの花 ミント 和三盆のメレンゲ)
(→2,30年前に街角に一軒あったカジュアルレストランの盛り合わせデセールを思い出させます。質が悪いわけではないですが、洗練も、工夫もなくてがっかりです。)

食後のお茶:ミントティー
小菓子:自家製お茶菓子(レモンのマカロン)

パン:バゲットとバター

飲物:100%リンゴ(フジ)ジュース
(→美味しいですが、量が少なすぎます。)
- 関連記事
-
- レストラン訪問記:神戸市(三宮駅)「シェローズ」(掲載のみ)
- レストラン訪問記:芦屋市「北じま」(★)
- レストラン訪問記:岐阜「ミツバチ食堂」(掲載なし)